非接触式体温計と電子体温計の値は一致するのか
Introduction
6月になって在宅勤務も終了し、徐々に研究再開しています。薬局バイトも来月から再開予定です。
再開にあたって、当研究室では毎日の体温測定がルール化されました。そこで用いているのが非接触式体温計です。
当ラボでは登校時の非接触型体温測定が実施されています
— すくなひこな🦋D2薬剤師 (@SKNHKN_O_721) 2020年5月31日
自分の額に向けて引き金引く感じがまじでペルソナ3 pic.twitter.com/LcL0zmncLW
使い始めて数日、違和感を覚えました。
僕は昔から基礎体温が高いです。平熱で37℃近くあります。このせいでインフルエンザワクチン打ってもらえないこともあって困ります。
しかし非接触式体温計では軒並み36.5℃付近の人並みの体温が観測されます。
この体温正しいのか?
そこで自前の体温計でも体温を測定し、両者が果たして一致するのか検証してみました。
Material and Methods
連続した5日間にかけて、毎日の朝・昼・夕の3回、非接触式体温計(額で測定)と電子体温計(脇で測定)で体温を測定しました。朝の測定のみ2台目の非接触式体温計でも測定しました。
朝は9時、昼は13時、夕は18時を原則とし、前後30分以内のズレは許容しました。
体温に影響を与える因子として室温、血圧、心拍数、食事を考え、これらの影響を観察しました。室温はエアコンモニターの値を、血圧および心拍数はスマートウォッチでの測定値を採用しました。
また、朝の体温においては、通学手段も影響因子として考慮しました。通学手段がバスの場合、その日は雨が降っていたことを意味します。
測定に用いた各種機器の商品名等は開示しません。
Results
5日間における体温および影響因子の値を表1にまとめました。
非接触式体温計(非接触)と電子体温計(脇体温)との測定値の推移を、室温とともに表示しました(図1)。また、両体温の相関を図2に示します。
非接触式体温計による測定値は電子式体温計による脇体温より低いことが観察されました。いずれの体温も朝≦昼≦夕となる傾向があり、これは室温の推移と類似しました。相関係数はおおよそ0.42と、正の相関が見られましたが相関の程度は強くありませんでした。
スマートウォッチによる測定が行われなかったため、Day 1-3における血圧および心拍数は不明です(表1)。Day 4,5における値からは、体温への影響は見られませんでした。
同様に、通学手段による朝体温の相違も確認されませんでした。
食事のパターンは全日程で共通していたため、食事の影響は評価できませんでした。
朝体温のみを対象とした検討から、非接触式体温計2台間での測定誤差はいずれも±0.2℃の範囲内にあり、再現性を確認しました(図3)。
Discussion
予想に反せず、非接触型体温計による体温は電子体温計での測定値よりも低い傾向がありました。しかしこれは、過去の報告とは矛盾する結果となりました。
過去の検討は本検討に比べ環境条件を均一にした上、複数人を対象に実施しています。私は成人女性Cと同様のパターンですが、一般則からの外れ値である可能性も否めません。
非接触式体温計は対象物から発される赤外線などに由来する熱放射を利用して温度を計測します。汚染されにくく衛生的であり、測定者による誤差が少ない特徴があります。新型コロナウイルス流行下では最適の機器と思います。
一方、接触式である電子体温計は、熱伝導を利用して体温を測定します。測定物と同じ温度に達するまでに時間を要する一方、測定精度は高いとされています。しかしそれでも、深部体温を正確に反映していない可能性が報告されています。
本検討での測定値からは、過去の多くの測定経験と比較し、電子体温計での測定値が私の実体温をより正確に反映しているように思います。
本検討の限界をいくつか述べます。まず、私1人を対象とした検討であったこと。しかも私は基礎体温が高く、一般集団を全く代表しない自信があります。また、湿度や運動量など、他の因子による体温上昇が考慮できませんでした。運動量については血圧や心拍数から推測可能ですが、スマートウォッチの不具合も含め、測定できなかった項目が多かったことは反省しております。
Conclusion
非接触式体温計は電子体温計での測定値よりも低い値を報告しました。非接触式体温計同士での測定値は概ね一致しました。また、室温と体温の推移が類似したことから、これから外気温の上昇に伴う体温上昇が考えられます。
非接触式体温計は衛生的であり、昨今の状況下において最適な機器と考えられますが、通常の条件では使用を勧められないかもしれません。
少なくとも、非接触式体温計での測定における、感染を予測可能なカットオフ値を新たに設定する必要性が示唆されました。
とはいえ、繰り返します通り、より大人数での、より精練されたプロトコルに基づく検討が必要です。ご協力いただける読者様がいらっしゃいましたら、まこと幸甚に存じます。