それは今日の自分じゃなくていい
「でも、患者さんにも色んな方がいらっしゃるでしょう?薬剤師さんも大変ですね。」
先日薬局で服薬指導にあたった一人の患者さんがこう仰いました。穏やかな初老の彼女(敬意を持ってマダムと呼ぼう)は先日2度目のワクチン接種を終えられました。
マダムとは接種以前にもお話をする機会があり、その際ワクチンへの不安を相談されました。テンプレートのような質問にこれまたテンプレートのお答えをいくつかしたところで、不安はあらかた解消されたようでした。
それ以降で初めてのお話の機会でしたので、ワクチン接種時の体調変化についてお伺いしました。副反応は重くなく、著変なく経過されたようです。よかった。
冒頭のお言葉は、そんな会話の中で発せられました。前後を補足します。
「私は(ワクチンの)不安を解決できて、接種できて本当によかった。お世話になりました。でも、患者さんにも色んな方がいらっしゃるでしょう?薬剤師さんも大変ですね。みんながみんな、ワクチンを打ちたいわけではありませんもんね。」
マダムが言いたいのは、ワクチン反対派の患者さんもいらっしゃる中で、説明を受けつけない方もきっといますでしょうに、ということです。事実、20〜30代の約1割の方が「ワクチンを絶対接種したくない」と考えているらしいです。
いやはや素晴らしい想像力です。でもあなたがそんなことまで心配してくれなくてもいいんですよ、マダム。
実際僕は、ワクチンによらずですが、自分の説明や指導が受け入れなかったことをあまり悔やみません(少しは気にします)。なぜなら僕の医療者としての理念は、『呪術廻戦』伏黒恵さながら同様だからです。
少しでも多くの善人が平等を享受できる様に
俺は不平等に人を助ける
医療の文脈で善人という表現は不適切ですが、少なくとも僕は全人類を救ってやりたいなんて微塵も思ってはなくて、自分が力になりたいと思える人の力になりたいだけです。あ、でも家族や近しい人にアレな人がいるとちょっとアレかもです(伝われ)。
タイトル回収します。これは以前、1年目で張り切っていた時に、先輩の薬剤師さんに言われたことです。
「服薬指導という限られた時間の中で、説明したいことを全部して、聴きたいことを全部聴いてなんて、到底できない。今日はこんな話をしてみよう、それくらいでいいんだよ。患者さんのためになりたい、現状を改善したい。そんな気持ちは大事だけど、それができるのは今日の自分じゃないかもしれないし、明日の誰かでもいい。」
だからま、そんな気張んなよ。そんな感じのことを言われました。空回ってたんでしょうね、恥ずかしい。。。
だからまあ、僕の言葉が届かない人がいてもいい。もちろん伝える努力はしますけれど、響かせることに躍起になる必要はない。自分が誰かの何かを変えられるなんて、そんなおこがましいこと考えない方がいいです。
感染拡大が止まらないここ数日、ワクチンの普及とインフォデミックへの対処は急務です。
今日の僕にできなかったことを、どこかの誰かが担ってくださることを祈っております。