O-721

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乾癬治療に用いる抗体医薬品の比較 

僕は大学院で自己免疫疾患の治療とそれに用いる生物学的製剤(抗体医薬品)について研究しています。主には炎症性腸疾患や関節リウマチが研究対象疾患なのですが、最近(と言うほどでもないですが)になって乾癬の治療に用いられる抗体医薬品の種類が多いことに気がつき驚きました。

今回の記事ではそれらの内いくつかについて、有効性を比較したRCTについて論文を紹介いたします。

乾癬の病態形成とその治療薬(分子経路と抗体医薬品に注目して)

下の図に乾癬の病態形成に関わる炎症性サイトカインなどの経路と、それらを標的にする抗体医薬品をまとめました。こちらはファルマシア vol.56 No.4 2020 に載せられた図を参考にさせていただきました。(2019年12月より適応を得たセルトリズマブペゴルを追記しています。)

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なんと抗体医薬品だけで9種類も存在しています。TNF阻害剤であるアダリムマブ やインフリキシマブは関節リウマチなど他の疾患での使用実績が豊富な一方、IL-17やIL-23を標的とした医薬品が多いのは乾癬治療の特徴です。

さてそれではこれらの医薬品はどのように使い分けることができるのでしょうか。薬剤間の比較を行った試験として、以下に3つのRCTをご紹介します。

 

一報目:グセルクマブとセクキヌマブは同程度

Reich, K., Armstrong, A. W., Langley, R. G., et al. (2019). Guselkumab versus secukinumab for the treatment of moderate-to-severe psoriasis (ECLIPSE): results from a phase 3, randomised controlled trial. Lancet, 394(10201), 831–839. https://doi.org/10.1016/s0140-6736(19)31773-8

ECLIPSE study(日本語だと日/月食試験?) グセルクマブ(GUS)セクキヌマブ(SEC)の有効性を比較した初のランダム化比較試験(多施設、二重盲検)です。

48週時点でのPASI 90(乾癬の面積と重症度の指標 Psoriasis Area and Severity Index のベースラインから90%以上の改善をPASI 90とする)が主要評価項目で、この達成率がGUS治療群とSEK治療群で比較されました。非劣性マージンは0.1(10%)です。

投与スケジュールが両剤で異なるので、GUS治療群ではSEC治療群での投与タイミングに合わせてプラセボが投与されています。またSECは2回投与なので、GUSの1回投与の後にもプラセボのもう1回投与があります。こういう試験デザイン上の工夫は読んでいて勉強になりますし面白いですね。

さて肝心のPASI 90達成率ですが、GUS治療群(n=534)では84%、SEC治療群(n=514)では70%となり、統計的有意差も確認されました(p<0.0001)。感度分析の結果も同様で、実は優越性試験でも有意差があります。

残念ながら、副次評価項目である12週および48週時点でのPASI 75達成率では優越性は示されませんでした(p=0.0616)。したがって論文の結論としては「非劣性」となるのですが、筆者たちはGUSの長期の有効性が示されたと言っています。

SEC治療群におけるPASI 90達成率は24週以降徐々に低下傾向にあり、GUS治療群との差もその時期から開き始めています。個人的には GUS>SEC と言ってしまってもいい気がします。12週時点まではPASIの改善度に両剤間で差はなく、48週を超えるより長期での治療成績が気になるところです。

安全性の面では両剤に目立った差はありませんでした。SEC治療群の方が感染症などの副作用発生頻度がやや高いようにも見受けられますが、統計的な解析処理はされていません。

 

二報目:リサンキズマブはアダリムマブより優秀

Reich, K., Gooderham, M., Thaçi, D., et al. (2019). Risankizumab compared with adalimumab in patients with moderate-to-severe plaque psoriasis (IMMvent): a randomised, double-blind, active-comparator-controlled phase 3 trial. Lancet, 394(10198), 576–586.  https://doi.org/10.1016/s0140-6736(19)30952-3

IMMvent studyではリサンキズマブ(RIS)アダリムマブ (ADA)の有効性を比較しています。こちらも多施設での二重盲検ランダム化比較試験です。

本試験は2つのパートに分けられて実施されました。

Part A(投与開始後16週まで)

  • RISのADAに対する優越性を評価。
  • 患者はRIS治療群(n=301)とADA治療群(n=304)にランダム割付。
  • 主要評価項目は16週時点での PASI 90と sPGA score (static physician global assessment, 医師による静的総合評価。膨疹、紅斑、及び鱗屑の性状によって、乾癬病変をカテゴリー分けして皮膚症状の重症度を医師が包括的に評価する指標)が0または1の患者の割合

sPGAでは4週時点、PASI 90では8週時点から有意差が確認され、ADAに比べRISの優れた効果が認められました。

16週時点での PASI 90達成率はRIS治療群で72%、ADA治療群で47%でした(p<0.0001)。調整後の絶対差は24.9%(95%CI:17.5-32.4%)でした。

同様に16週時点でsPGAが0または1となった患者の割合は、RIS治療群で84%、ADA治療群で60%でした(p<0.0001)。調整後の絶対差は23.3%(95%CI:16.6~30.1%)でした。

 

Part B(16週〜44週)

  • ADA治療に中程度の応答を示した患者でのRISの有効性を評価。
  • 16週での治療成績に基づきPart AでのADA治療群を再割付。PASI 90達成患者(n=144)はADA継続、PASI 50未満の患者(n=38)はRISへ変更、PASI 50~90の間の患者はADA(n=56)かRIS(n=53)にランダム割付。
  • 主要評価項目は44週時点でのPASI 90

20週、つまり再割付後4週ですでにPASI 90に有意差が確認され、RIS再割付群での治療成績の向上が見られました。その後他の効果指標についても同様に差が見られています。

44週時点でのPASI 90達成率は、ADA再割付群では21%であった一方、RIS再割付群では66%と有意に異なり(p<0.0001)、調整後の絶対差は45.0%(95%CI:28.9~61.1%)

 

安全性の面では両剤間に目立った差はありませんでした。

なお筆者たちは研究限界として、両剤の投与スケジュールの違いが評価タイミングに及ぼす影響をあげています。

ADAは2週に1度の投与ですが、RISは0, 4, 16, 28, 40, ...(以降12週ずつ)です。評価タイミングはADA投与1週後、RIS投与4週後と設定されていました。

おそらく最終評価時点である44週直前の投与をしなかったものと思われますが、筆者たちは「ADAの最終評価は最終投与から3週間後に、RISの最終評価は最終投与から12~16週後に行われました。このように最終投与から最終評価までの間隔が長くなったことで、44週目には40週目に比べてPASIとsPGAの反応が若干低下した可能性があります。」と述べています。効果を過小評価する方向の限界なので、個人的にはそこまで気にしなくていいかなと思います。

 

三報目:リサンキズマブはセクキヌマブより優秀

Warren, R. B., Blauvelt, A., Poulin, Y., et al. (2020). Efficacy and safety of risankizumab vs. secukinumab in patients with moderate-to-severe plaque psoriasis (IMMerge): Results from a phase 3, randomised, open-label, efficacy assessor-blinded clinical trial. The British journal of dermatology, 10.1111/bjd.19341. Advance online publication. https://doi.org/10.1111/bjd.19341

IMMerge studyではリサンキズマブ(RIS)セクキヌマブ(SEC)が比較されています。本試験は多施設でのランダム化比較試験ですが、オープンラベルでの実施となっています。なお試験名からのも推察される通り、先ほど紹介したIMMvent studyとラストオーサーが一緒です。

今回の記事では紹介しませんが、IMMhance studyというものもありました。ここではプラセボとRISの比較に加え、RISの中止(プラセボへの変更)も検討しています。

さて、IMMerge studyの主要評価項目は2つあります。1つは、16週時点でのPASI 90達成率で、SECに対するRISの非劣性を評価しています(非劣性マージンは0.12)。2つめは、52週時点でのPASI 90達成率で、こちらではSECに対するRISの優越性を評価しています。

まず1つめの評価項目、16週時点でのPASI 90達成率ですが、RIS投与群(n=164)でSEC投与群(n=163)より高い傾向が見られます(73.8% vs. 65.6%, not siginificant)。調整済絶対差は8.2%(96.25%CI:-2.2~18.6%)でしたので、非劣性となります。

続いて52週時点での評価ですが、PASI 90達成率はRIS投与群(n=142)で86.6%、SEC投与群(n=93)で57.1%と、RIS投与群の方が有意に高い結果となりました。調整済絶対差は29.8%(95%CI:20.8~38.8%, p<0.001)と、優越性が示されました。

52週間の治療継続率も異なり、RIS投与群(92.1%)ではSEC投与群(82.8%)よりも脱落が少ない結果となっています。内訳をみると、有害事象の発生割合がRISでは1.2%に対しSECでは4.9%、また効果不十分もRISでは0.6%に対しSECでは4.9%とされ、RISの方が有効かつ安全な投与が可能である示唆が得られました。

ここでの限界は先述の通りオープンラベルであること(問題ないと思いますが)と、両剤の投与スケジュールの違いを考慮していない点が挙げられています。

 

まとめ

これらの結果を単純に合わせて考えると、リサンキズマブの有効性が際立ちます。

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詳細は省きますが、こちらのネットワークメタアナライシスの結果からも、リサンキズマブの高い有効性と安全性が報告されています。

こうなると興味深いのは、同じ標的分子の抗体医薬品同士で差が生じる理由ですね。私見ですが、リサンキズマブはヒト化抗体なのでヒト型のグセルクマブより力価が強いのかもしれません。インタビューフォーム上の解離定数をみる限りそうでもなさそうなのですが。。。

一方でリサンキズマブの免疫原性は問題になるかもしれません。インタビューフォームから、リサンキズマブ投与後の抗薬物抗体の発現率は22%と報告されています。長期の有効性と安全性については、リアルワールドでの検証が不可欠でしょう。

抗体医薬品も種類が増えてきて、いよいよ使い分けを考える時代です。患者個別の適正使用についてのエビデンスがまだまだ必要ですね。