高血圧治療で認知症になりやすくなるという都市伝説
大事なことなので先に結論
そんな都市伝説は色々調べたところ嘘っぽいから安心してね！！
先日とある知人に訊かれました。
「高血圧の薬を飲んでいるのだけれど、認知症になりやすくなるって聞いたんだけど、本当？」
いや6年間勉強してきたし国家試験にも合格しているけれどそんなこと聞いたことないよ！
彼によると、血圧が下がって脳に血が行き渡らずに脳機能が低下するという話を聞いたことがあるとのこと。
いや、高血圧治療って、高い血圧を正常値まで下げましょうって治療だから、その理屈だと正常血圧の人みんな認知症リスクなんですが…😅（高血圧が認知症リスク低減因子という方が正しいですが）
しかし、否定するのは簡単なので、チョチョっと調べてみました🤔
まずは添付文書。薬局でよく調剤するものを10種類くらい調べてみましたが、どこにも副作用の項目に「認知機能低下」に類することは書かれていませんでした。
次に論文検索すると、いくつかヒットしました。血圧と認知機能に関する調査って、思ったよりはされているんですね。ただ、明確な答えは出ていないようです。とは言え、調べた中では「高血圧が認知症のリスク因子」や「降圧薬によって認知症リスクが低下」といった、高血圧治療にとってポジティブな結果が多かったような印象です。
一つだけ取り上げて紹介します。2016年のコクランレビューに載ったものです。
なんというか、読みにくかった割に結果は大したことなかったなって感じです。ただメソッドがすごい頑張っている！これは骨が折れたと思います。
それでは内容に移ります。が、長い文献なので、本質に関係しないと判断したところは言及していません。あしからず🙏 気になる方は open access なので是非ご自身でも読んでみてください！
背景
- 過去の報告では、降圧薬が認知機能に及ぼす影響は保護的・障害的・中立的と様々であり、矛盾している。
- この矛盾は、中年期の高血圧は脳血管疾患に起因する認知症のリスク因子である一方、高齢者における低血圧は認知機能低下と関連することによるかもしれない。
- このレビューでは、降圧薬の使用中止の認知的影響、および成人（認知障害のある人も無い人も）におけるリスク・ベネフィットに関する証拠を要約する。
方法
成人（18歳以上）における降圧治療中止の認知的影響を評価したランダム化比較試験および比較臨床試験に関する既報を複合的に評価した。
▼対象患者の条件
▼主要評価項目 認知機能評価にはMMSEおよびTICSスコアが用いられていた。
- 認知機能障害の発生率
- 短期認知機能
▼副次評価項目
- 収縮期および拡張期血圧の変化
- 有害事象の発生率
- 降圧薬服用中止の遵守
結果・考察
電子データベースから検索された10,989件の文献は、重複や研究の質などから、最終的に3件（！）に絞られ、それらは次の2つの論文に基づいていた。
- Bath PM et al., Lancet, 2015「抗高血圧治療を継続・非継続群の脳卒中における高血圧の管理における一酸化窒素の有効性研究（ENOS study）」※認知機能については副次評価項目
- Moonen JE et al., JAMA Internal Medicine, 2015「認知機能に関する高齢者の降圧治療中止の研究（DANTE study）」
両研究の中止群で血圧が明らかに上昇したにもかかわらず、認知機能に影響はありませんでした（図3,4,5）。しかし、認知機能の評価という本レビューの観点では、両研究ともエビデンスの質は低いものでした。
また、追跡調査中に心血管イベントまたは死亡率への影響もありませんでした（図6,7）。しかしこれは、追跡期間が数ヶ月程度の短期間であるため、十分な評価ができていないと思われます。
転倒のリスクについては不明であり、また降圧薬の中止によって入院のリスクは変化しませんでした。
結論
降圧薬の使用中止が認知症の認知や予防に及ぼす影響は不明ですが、少なくとも血圧上昇とは関連していました。
感想
一万件以上の論文を評価するとは…(o_o)
ただ、その結果残ったのが3件で、しかも論文としては2報というのは、いかがなものかとも思います。注目している点があまりメジャーではなさそうなので、仕方ないのかもしれませんが、こんなに少ないことあるのでしょうか。
気になる因果関係としては、このレビューの結果としては「わかりません！」ということらしいですが😅 冒頭でも触れたように、色々読んでみると「関係ないと思う」って感じでしたので。現時点での結論としては「降圧剤飲んでも認知機能低下することはなさそう」ってことでいいと思います。
皆さんの周りに同じようなこと言っている患者さんいらっしゃれば、参考までに☺️
