O-721

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自己満足を形にします。大学院生だったり薬剤師だったり。

アンサング・シンデレラ 第7話:解説と感想

ドラマ7話にして原作1話相当のお話がきました。白血病の方は原作にはない…ですよね?

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今回ツッコミどころなかったので少しさみしかったです(?)笑 でも安心して観ることができました。

 

 

解説

全自動調剤機

薬剤師の仕事は調剤です。調剤とは本来、処方箋の受け取りからお薬のお渡し・説明(外来指導)までを含めた全行程を指すのですが、狭義にはお薬の取り揃え準備を指すこともあります。

薬局におけるヒューマンエラーの多くはこの狭義の調剤時に多く発生します。次の報告をはじめ、多くの調査で「同一医薬品の規格間違い」、「錠剤等の計数間違い」、「他薬の取り揃え」といった調剤ミスが多数を占めていることが指摘されています。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjdi/15/3/15_118/_pdf

医療安全上の考えでは、人が作業する以上はミスが発生するリスクは常に存在するものであるといった認識を前提とします。単純に考えて、人の手が入らない方がミスは減るのです。

そこで活用されるのがみんな大好きAI、機械、ロボットです。

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作中では散薬調剤ロボット「DimeRoⅡ」、全自動PTPシート払出装置「robo-pickⅡ」、抗がん薬混合調製ロボット「ChemoRo」の3つが例示されました。これらはいずれも実際に湯山製作所さんが販売されている調剤ロボットになります。

www.yuyama.co.jp

学会報告レベルでは、多くの施設からロボット導入のメリットが報告されています。また論文報告としても、主に業務効率化やミスの軽減、医療者・患者双方の安全性向上などが報告されています。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

www.degruyter.com

一方で、調剤自動化のメリットや費用対効果に関する報告は少なく、導入の有用性について堅牢なエビデンスがないことも指摘されています。同時に、こういったエビデンスについて、薬剤師を筆頭にデータを解析し公表することが求められています。

ejhp.bmj.com

www.ncbi.nlm.nih.gov

個人的には調剤の自動化は賛成です。効率化と安全性の向上は多くの恩恵をもたらします。一方で、病棟業務や臨床研究、有事の際の対応なども考えると、自動化によって人員を削減することは必ずしも簡単ではないのではないかとも考えます。

ちなみに(効率化ではなく)医療安全という観点では、自動化の他に制度や機器の仕組みからもミスが起こりにくいよう工夫されています。主には

  • フール・プルーフ(fool-proof) 例:経腸ラインと輸液ラインでシリンジの口径の規格を変える
  • フェイル・セーフ(fail-safe) 例:輸液ポンプ内のルートに気泡を感知したらポンプの運転を止めてアラームで知らせる

という考え方に則っています。

それでもなくならない医療事故。人が人を看る以上、ゼロにはできないものなのでしょうか…難しい課題です。

 

急性骨髄性白血病

白血球のがん(悪性腫瘍性疾患)を白血病と言います。造血系の細胞が無制限に増殖することで、貧血や出血傾向、易感染をはじめとする症状が現れます。

白血病は2つの観点から2種類に大別されます。したがって大きくは2x2=4種類に分類されます。

  • 急性 or 慢性白血球の分化過程のどのタイミングでがん化しているか、という分類です。病状自体の罹患期間やフェーズとは関係ありませんので注意です。
  • 骨髄性 or リンパ性がん化したのが骨髄系(顆粒球系)かリンパ系、という分類です。次の図を見れば、簡単に理解できると思います。

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https://ganclass.jp/kind/all/cause/

今回の症例は急性骨髄性白血病でした。一般には成人(中高年以降)に多いらしいのですが、作中では小児期からの発症でした(小児で多いのは急性リンパ性)。

まず「急性」なので、分化段階の初期にある白血球系の造血幹細胞の突然変異による、未熟な芽球が増殖しています。造血機能が障害され、三大兆候として発熱・貧血・出血が現れます。

次に「骨髄性」ですが、FAB分類(French-American-British分類)に則り、MPO染色(ミエロペルオキシダーゼ染色)の陽性率3%以上のものを骨髄性とします(⇔3%未満はリンパ性)。

FAB分類では病態をM0〜M7までの8段階に分類します。病態としてこの中で一番厄介なのはM3:急性前骨髄球性白血病になります。特徴として15番染色体上のPMLと17番染色体上のRARαが相互転座した(入れ替わった)PML/RARαキメラ遺伝子形成が認められます。RARαは細胞成長に関わるレチノイン酸受容体をコードする遺伝子ですが、PMLはこのRARαの発現を抑制します。そのため未分化の白血球細胞(前骨髄球)が増殖します。

治療は以下の流れで3段階に分類されます。

  • 寛解導入:完全寛解、すなわち骨髄芽球が5%以下となり末梢血中血球分布が正常化し、社会復帰が期待できる状態にする。アントラサイクリン系の抗がん剤であるイダルビシンもしくはダウノシルビンに加え、シトシン類自体であるシタラビンを組み合わせる。
  • 地固め寛解状態を確実なものにする。ビンカアルカロイド抗がん剤のビンクリスチンにステロイドプレドニゾロンを組み合わせるVP療法がメジャー。
  • 維持・強化白血病細胞を根絶する。骨髄移植が可能な状態にする。比較的忍容性の高く長期間の投与が可能なメルカプトプリン、メトトレキサート、ビンクリスチン、プレドニゾロンなどを用いる。主に外来で施行する。

また、M3:急性前骨髄球性白血病に対してはオールトランスレチノイン(トレチノイン)やレチノイド(ビタミンA誘導体、タミバロテン)による分化誘導療法が施行されます。事前の化学療法により「芽球及び前骨髄球」の和が1,000/m㎥以下となっていることが投与条件です。

これらに加え、合併症や随伴症状への支持療法の必要があります。特にM3:急性前骨髄球性白血病においては、高頻度で播種性血管内凝固症候群(DIC)が発生しますので、必要に応じて抗凝固療法が行われます。最初に述べたように易感染状態にもなりますので、ST合剤(スルファメトキサゾール:トリメトプリル=5:1、前者がジヒドロプテロイン酸シンターゼ阻害薬(葉酸合成阻害)、後者はジヒドロ葉酸レダクターゼ阻害薬(葉酸活性化阻害))などの予防投与もなされます。

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他の3つ(慢性骨髄性、急性リンパ性、慢性リンパ性)についても触れようかと思いましたが、めちゃくちゃ長くなっちゃうのでこれくらいにしておきます。国試対策というほどではありませんが、キーワードだけ表にまとめました。この分野めちゃくちゃややこしいので、受験生の方は整理等頑張ってください…。

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肺塞栓症と抗凝固療法

先ほどの急性骨髄性白血病の項で、DICについて触れました。DICでは循環血中のトロンビンやフィブリンの異常な過剰生成が起こり、その過程で血小板凝集および凝固因子消費が亢進します。M3:急性前骨髄球性白血病では腫瘍細胞が組織因子を発現または分泌するのに加え、化学療法による腫瘍崩壊症候群によってもDIC症状が促進します。

凝固因子が消費されるので出血が起こりやすくなる一方、血小板凝集の促進によって主に静脈における血栓性および塞栓性の閉塞症状がみられます。

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抗凝固療法は DIC に対する必須の治療です。これにはヘパリン(ヘパリン類)、メシル酸ガベキサートやメシル酸ナファモスタット(プロテアーゼ阻害薬)、アンチトロンビン製剤などを用います。原則として経口ではなく、注射での投与となります。

作中最後のシーンで、エドキサバンが処方されていました。ガイドラインには記載のない、DOAC製剤です。リクシアナ®︎錠の添付文書には効能効果に「静脈血栓塞栓症深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症)の治療及び再発抑制」が含まれていましたので、それで処方されたのですかね。

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なお、DIC による出血傾向に対する抗線溶薬(トラネキサム酸)の投与は、血栓症や臓器障害の合併の報告があるため原則禁忌です。多発した微小血栓が残存し全身に分布する恐れがあります。DICではこのように凝固と出血という相反する傾向のバランスを取らなければならず、管理の難しい病態となっています。

 

喘息治療と喫煙とテオフィリン中毒

喘息とは気道の慢性炎症性疾患であり、特徴的な症状として咳や発作性呼吸困難が生じます。気道可逆性(SABA吸入前後での1秒量改善)に基づいてCOPDと鑑別されます。…と習ったのですが、そうでもないような報告もあったりします。何れにせよ、喫煙が症状増悪因子とされます。

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喘息治療は「発作時の鎮静」と「発作の予防」に大別されます。

前者に用いる薬を「reliever:リーリバー」といい、β刺激薬吸入剤および内服ステロイド内服薬および点滴注射テオフィリン点滴などが該当します。

一方、後者に用いる薬を「controller:コントローラー」といい、β刺激薬貼付吸入ステロイドテオフィリン内服などが該当します。

このように、用いる医薬品の成分は類似しますが、服用方法や製剤が異なります。

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今回詳細に取り上げられたのはテオフィリンというお薬でした。キサンチン系気管支拡張剤という分類の本剤は、気管支平滑筋に直接作用することで気管支を拡張させます。作用機序として、ホスホジエステラーゼ活性阻害による細胞内cAMP量の増大、細胞内Ca動態への直接・間接的な作用、アデノシン受容体の拮抗作用などが考えられています。

テオフィリンは、CYP1A2という酵素によって代謝を受けます。同じくCYP1A2によって代謝を受ける医薬品に、抗精神病薬のオランザピンやクロザピンが挙げられます。

このCYP1A2、たばこの煙に含まれる成分により発現が誘導されます。そのため喫煙習慣がある患者では、テオフィリンなどの医薬品の代謝(不活性化)が促進され、期待した効果が得られないことがあります。

作中では、入院を機に喫煙量を減らした患者が、喫煙時期と同量のテオフィリンを服用したことによってテオフィリン中毒となってしまいました。

過剰投与によりテオフィリンの血中濃度が高値になると、主に以下のような中毒症状が発生します。軽微な症状から順次発現する、ということではなくいきなり重篤な症状が発現することがあるので要注意です。

  • 消化器症状:悪心、嘔吐
  • 精神神経症:頭痛、不眠、不安、痙攣、せん妄、意識障害
  • 心血管症状:頻脈、心室頻拍,心房細動,血圧低下
  • その他:低カリウム血症やその他の電解質異常、呼吸促進,横紋筋融解症

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テオフィリン濃度は5~15 µg/mLが治療域とされます。60歳以上の高齢者や新生児ではテオフィリンクリアランスが有意に低下するため、10 µg/mLを上限目安とする場合もあります。写真では25 µg/mLとされていますが、テオドール®︎のIFでは 20 µg/mL以上で中毒症状が出やすいと記載されています。

medical.mt-pharma.co.jp

副作用モニタリングは薬剤師の十八番です。副作用に対して処方が追加されてしまうと、以前に紹介しましたポリファーマシーの問題につながります。これを処方カスケードと言います。

減らせるお薬を適切に減らす、これこそが薬剤師の醍醐味だと思います。

 

テーラーメイド医療

オーダーメイド医療や個別化療法とも呼ばれます。患者さん個々人の遺伝子情報やタンパク質発現量といった個体間差を前提に、それら情報(バイオマーカー)に基づいて投薬や治療を行う医療体系・概念を指します。ちなみに現在の「病気ごとにほぼ画一的な投薬・治療+医師のさじ加減」という医療体系のことはレディメード医療というらしいです。

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作中では例としてUGT1A1について触れられていました。UGT1A1とは肝臓のUDPグルクロン酸転移酵素(UGT:Uridine diphosphate glucuronosyltransferase)の分子種の1つであり、抗がん剤の一種であるイリノテカンの代謝酵素です。

イリノテカンは体内のエステラーゼにより加水分解され活性代謝物(SN-38)となることで抗腫瘍効果(トポイソメラーゼI阻害によるDNA合成阻害)を示します。プロドラッグというやつですね。前回のスルタミシリンもプロドラッグでしたが、目的・意図が異なります。

イリノテカン、SN-38とそのグルクロン酸抱合体は、胆汁とともに腸管内に排泄されます。したがって、イリノテカンでは消化器系の副作用が多く見られます。特に多いのは下痢です。「下痢ノテカン」とは有名な語呂だと思います。

UGT1A1には遺伝子多型が存在します。これにより先天的にUDPグルクロン酸活性が低下している患者さんでは、イリノテカンの副作用がより重篤になったり高頻度で発現することが報告されています。こういった患者さんにはイリノテカン以外の代替薬を投与することが望ましいですね。

UGT1A1の遺伝子多型検査は保険適応を受けています。しかし、すべての遺伝子検査が保険適応を受けているわけではありません。また複数の遺伝子を検査できるパネル検査というものもあります。国内で2020年8月現在までに保険適応があるのは、「OncoGuide™ NCCオンコパネルシステム」ならびに「FoundationOne CDxがんゲノムプロファイル」になります。

これからの医療は間違いなく個別化の時代です。個別化療法がより身近に、お手頃に、当たり前になる未来を願っています。

 

感想

政治家「しばらく入院すっぞ!」

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こういうのって実際あるんですか笑 どなたか(教えられるなら)教えてください。

 

体を壊すのは危機管理能力の欠如?

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イムリーですね。これ以上は言いません。

 

やれる治療があるだけマシだから

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7話のタイトルにもなったこの発言。自分のことだけで精一杯な人も多い中で、どれだけの苦悩を経験すれば、このような考え方ができるようになるのでしょうか…。

 

患者への感情移入

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医療者であれば多かれ少なかれ経験するところかもしれません。

以前の記事でソフトスポットというものについて言及しました。治療において、自分の治療に対する計画や意志が個人的な感情に流され恣意的なものになるなど、バイアスが生じてしまう患者のことです。ソフトスポットへの対処を早期から指導した瀬野副部長、さすがです。

 

 

来週は瀬野さんが吐血するようで、これは原作を手がける荒井ママレさんも驚きの様子です。

あとFODでスピンオフの『アンサング・シンデレラ ANOTHER STORY 新人薬剤師 相原くるみ』の配信も始まりましたね。大変気にはなるのですが、FODプレミアム会員ではないので、試聴は諦めます…。

まだまだ注目の『アンサング・シンデレラ』、また来週お会いしましょう👋