O-721

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抗菌薬の適正使用について思うこと②

前回からの続きです。抗生物質の適正使用について、患者側の視点で考えてみましょうというお話でした。

今回紹介する文献はこちらです。嬉しいことに open access です。

 

Why patients want to take or refuse to take antibiotics: an inventory of motives 

Bagnulo et al. BMC Public Health (2019) 19:441

https://doi.org/10.1186/s12889-019-6834-x

bmcpublichealth.biomedcentral.com

 

簡単に要約しますね。間違っていたらごめんなさい。

 

背景

  • 抗生物質の不適切な使用は、世界的な問題である。患者は医師の処方以外に、家族からの譲渡やインターネット上での購入などで抗生物質を入手できてしまう。
  • 患者の抗生物質使用のパターンを変えるためには、患者が処方を受け入れるまたは拒否する理由を理解する必要がある。
  • 本研究の目的は、抗生物質の服用を遵守・拒否するときに患者が持つ動機を調べること。

方法

  • フランスのトゥールーズの様々な公共施設で協力者をリクルート
  • 服薬の同意拒否に関するアンケート調査(Additional file 1)

結果

  • 18〜85歳の男性147人、女性271人が研究に協力した。
  • 服薬同意の主な理由は
  1. 医師の処方が適切だから
  2. 職場でのパフォーマンスを向上させるため
  3. 予防目的での使用
  • 服薬拒否の主な理由は
  1. 重症でない場合、自己の防衛システム(免疫)で十分だから
  2. 耐性菌の出現を予防するため

考察

  • 多くの人々は医師の抗生剤処方に適切と考え、それは服薬同意の主な動機ではあるが、期待されるほど高くは評価されていなかった。
  • 耐性菌は大きな問題であることをほとんどの人が認識しているが、少数派(約21%)はその限りではなかった。
  • 抗生剤を服用したがらない患者は、治療が完了する前に治療を中止する傾向があった。
  • 参加者の5人に1人は、医師と抗生剤治療に対する信頼の欠如を示した。
  • 本研究の限界は、少なくとも、結果が自己申告に基づくものであること、サンプリングを特定の場所でのみ行ったこと。

結論

抗生剤の服用に同意する患者は、職場でのパフォーマンス向上や日常を楽しむための予防目的でさえ服用する。拒否する患者は、治療完了前であっても服用を中止することがある。過去に処方された抗生物質を使用する可能性さえもある。多くの患者が、細菌耐性を高める可能性が高い行動をとっており、適切な患者教育の必要がある。

 

フランスでの検討ではありますが、一定数の患者が、医師の処方以外にも、セルフメディケーション的な、勝手な服用をしています。これは、女性や、子供をもつ患者で特にみられる傾向のようです。

一方で、医師の処方を絶対的に信頼している人は、想像より少ないようですね。また、抗生剤を使い切らずに保管しておいて、お守りのようにして生活している人も多いようです。

服薬を拒む患者の動機に、耐性菌出現の防止が挙がったことは驚きです。ただ、耐性菌の問題について多くの人々も理解できているようですが、服用期間を勝手に短縮してしまうなど、どのような行動が適切かまでは理解できていないようです。

抗生剤について、医療スタッフが専門的に知識を深め、適正使用を推進することは大事です。しかし、患者の一定数が抗生剤の「お守り」神話を信じていることがわかりました。十分な服薬指導や市民講座などによって、人々の抗生物質に対する認識と行動を変えていく必要があります。

この論文は次のような文章で締めくくられています。

motivation to act in a determined way can only be elicited from the patient; it cannot be imposed from outside.

ー 定められた方法をとる動機は、患者自身からしか引き出されません。それは、外部から課すことはできないのです。