O-721

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自己満足を形にします。大学院生だったり薬剤師だったり。

Fighting an Infodemic

“We're not just fighting a pandemic; we're fighting an infodemic.”

Tedros Adhanom Ghebreyesus, WHO's director-general.

 

昨日「医療ビッグデータシンポジウム」というwebinarに参加しました。

13時から約5時間半にかけて、著名なデータサイエンティストの皆様のご講演を無料で(!)拝聴、勉強させていただきました。

おそらく東京開催であったものが、コロナ流行の状況下でオンライン開催となりました。現地開催では参加できなかったので、こればかりは間違いなくコロナの恩恵です。

 

プログラムの終盤、慶應義塾大学の宮田裕章先生による招待講演がありました。タイトルは「コロナ危機を通じて再構築すべき国家データ戦略」。

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講演内容の覚え書き

宮田先生は自身のnote(無料!!)や様々な記事、番組で情報発信をされています。先生のお考えについての詳細はそちらにお任せします。

note.com

www.businessinsider.jp このBI PRIMEコンテンツは特別に無料公開中です。第2回以降はBI PRIME会員限定記事になります。

www.youtube.com 昨日の講演内容と近いです。

 

昨日のご講演ではLINE健康調査などのご実績とともに、データ活用を前提とした未来ビジョン(Society 5.0)のコンセプトについてわかりやすくご紹介いただきました。

特に印象深い言葉がいくつかあるのですが、その中の一つにこんなものがありました。

グレーゾーンにある情報エビデンスが不十分で不確実性の高い情報)っていうのは専門家は積極的に発言しないので、(ネットには)玉石混交の「石」ばっかりある。その結果、「石」しかないものに人々が惑わされてしまう。

 

先日 Lancet 誌に "The COVID-19 infodemic"という editorial が掲載されました。(editorialってなんやねん、って方はこちら

内容を一部抜粋してご紹介します。

Fake news, misinformation, and conspiracy theories have become prevalent in the age of social media and have skyrocketed since the beginning of the COVID-19 pandemic. This situation is extremely concerning because it undermines trust in health institutions and programmes.

ソーシャルメディアの時代にあって、フェイクニュース誤報陰謀論が蔓延し、またこれはCOVID-19パンデミックが始まってから急増している。保健機関やプログラムに対する信頼を損なうものであり、このような状況は極めて憂慮すべきものである。 

本記事の冒頭に記したテドロスWHO事務局長の言葉は、6月29日に開催された第1回Infodemiology Conference で述べられたものです。この会議では Yale 大学の Saad B. Omer 教授により以下の指摘もなされています。

Governments want to be perceived as being in control and are too quick to provide false reassurances.

政府は、自分たちが事態を掌握できていると思われたく、あまりにも早く誤った安心感を与えてしまう。

一貫性のないメッセージの発信や新たなエビデンスに基づいた発言撤回などが行われると、政府は無能と誤解されます。主導者には明確なコミュニケーション、共感、科学と政治の整合性に基づいた堅実なリーダーシップが重要であると示唆されています。

この問題の解消に関連して、本論文ではマスメディアがあてにならないとも述べています。

Such miscommunication is not helped by mass media, which are often guilty of favouring quick, sensationalist reporting rather than carefully worded scientific messages with a balanced interpretation. The outcome is erosion of public trust and a sense of helplessness, the perfect conditions for the spread of harmful misinformation that begins a vicious circle.

このようなミスコミュニケーションは、マスメディアによって解消されることはない。マスメディアはしばしば、調和のとれた解釈で慎重に書かれた科学的なメッセージよりも、迅速でセンセーショナルな報道を好むという罪を犯している。その結果、国民の信頼が損なわれ、無力感に襲われ、有害な誤報が広まり、悪循環に陥ってしまうのである。

COVID-19からは離れてしまいますが、先日やっと日本でも9価HPVワクチン(シルガード9®︎)の製造販売が承認されました。 

HPVワクチンによる薬害については、少なくとも司法の観点では決着していません。有害事象を経験された方々の主張をないがしろにするつもりは毛頭ありませんが、世界的には安全性が保証されていると考えられているのが主流であることもまた確かなことです。

反ワクチン、反医療などのキャンペーンでも、陰謀論誤報が用いられることがあります。

Conspiracy theories work because they provide the comfort of an explanation in times of uncertainty and anxiety. Their messaging revolves around core emotions and values and hijacks the mental cues that we use to decide whether the source is legitimate and thus trustworthy. 

陰謀論が有効なのは、不確実性と不安の時代に、説明がなされるという心地良さを提供するからである。彼らの発信は、核となる感情や価値観を中心に展開し、情報源が適切であるかどうかを判断するために私たちが使用する精神的な取っ掛かりを強奪する。またそれ故に信頼される。

多くの方がCOVID-19に対するワクチンを切望されていることと思いますが、同時に反ワクチンの考えも健在です。詳しくはこちら(「COVID-19であっても反ワクチン運動は無くせない」)をご覧ください。

 

かなり横道に逸れてしまいました。つまり世論的には、玉石混交の「石」しかないとしても何もない不安よりは良い(枯れ木も山の賑わい)、ということなんだと思います。

宮田先生は昨日の講演でこうも仰っていました。

不確実な現実の中で、いかにデータを用いるのか。Golden standard を待つのではなく、better を生み出していかなければならない。

社会は better の発信と更新に、勇気と寛容を持たなければいけないんだと思います。科学は one chance ではなく、try & error,  scrap and build で、真実に近いもの、best に近いbetter へ至る努力を重ねています。

「石」や「枯れ木」といった、シンプルでわかりやすいかもしれないが無用の情報については、それを見抜き断捨離するスキルや姿勢も必要です。

 

宮田先生と論文の紹介のはずが、説教くさくなってしまいました。すみません。

医療データ解析に携わる一介の研究者(の卵)として、昨日は学ぶことの多いシンポジウムでした。国立情報学研究所(NII, National Institute of Informatics)喜連川優所長の、シンポジウムでのお言葉を以って筆をおきます。

Fail Fast, Fail Cheap, Fail Smart.

早く、軽く、賢く、失敗しよう。