O-721

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自己満足を形にします。大学院生だったり薬剤師だったり。

スライドデザインについて素人なりに思うこと

「どうやったらスライドをセンスよく作れますか?」

研究室の、今はもう卒業した後輩によく訊かれました。彼女は棒グラフが7本あったら虹色で色分けするような人でした。あと多分空白恐怖症でした。

苦労はしましたが、最終的になんとか原色以外を使うことと濃淡やパターンを応用することだけは学んでくれました。

「スライドデザインってどこかで学べるんですか?」

先日久々に、同じようなことを訊かれました。今度は同期からの質問でした。彼はかつての後輩ちゃんとは逆にスカスカのスライドで、文字かイラストのどちらかにだけに頼る傾向がありました。言いたいことを伝えるためには物足りない、あるいは少し的外れな図やイラストを使っていました。

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サンプルテキストは『草枕』(わかる人にはわかる)

僕は昔、記事やポスターやチラシやなんやを作っていた経験があります。今でもAdove操作は(ある程度)覚えているくらいには色々とやらせてもらいました。

なので、確かに他人よりかはいわゆるデザインというものに自信というか、少なくともこだわりはあります。ですが人様の参考になるほどのものかというとそこまでではないのですが…。

というか、スライドだろうがなんだろうが、自分が作り出す作品に自分のこだわりが一つもないのはまずいと思います。こだわる箇所は人それぞれかと思いますが、デザインにこだわることで損はないと思います。

先の2人に、声高に言いたい。

スライドに限らず、デザインは学べます。センス=感覚的ではなく、理屈で学べます。

今回は僕なりに、デザインに対する考えについて書いてみようかと思います。

しかし僕はデザイン素人(よくてアマ)なので、最初に言っておきます。絶対にプロの指南書やブログを読んだ方がためになります。それでも読んでみてもいいかなって方は、続きをどうぞ。

 

 

基本原則「整列」

これができない人はいないと思うんですが、大前提なので一応触れときます。

整列、と一言で言いましたが、中央揃えすればいいやってもんじゃないです(聞いているか後輩ちゃん)。経験的に、中央揃えはむしろ視認性が悪くなることが多いです。箇条書きなんかだと、文頭の位置が揃わないからですね。

「整列」と言う言葉の意味はこれだと思います。

  • ジャンル、レベルの同じものは寄せる
  • ジャンル、レベルの違うものは離す

さっきの例だと、箇条書きされる内容はジャンルが同じはずですよね。なので、一箇所に揃える。箇条書きの中でも、「文頭」というもののレベルは同じなので、そこも揃える(多分左揃え)。箇条書きを述べるに至った大元の内容と箇条書きの要素はまとめてもいいかなと思います。そこから導き出される結論や解釈は、それまでの内容とはレベルが違うので、離さないといけません。

整列という言葉からは少しは離れますが、要素を分けるという観点では文字サイズを変えるのも有効な手段です。下手に色塗ったりする必要はなく、少しのスペースと文字サイズの違いがあればそれだけで目立ちます。

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こうやって整列してできたスペースのことを、僕は「意味のある空白」と言っています。意味のある空白を意識するだけで、スライドデザインは格段によくなります。

 

一見手が出しやすい修飾は高等テクニック

色、太字、斜体など、PPTだとタブにボタンが置いてあるような修飾方法は、手が出しやすい一方で実はものすごい高等なテクニックです。他にも、枠や矢印、影つけなんかも使いこなすのはすごく難しいです。そういえば僕の後輩ちゃんは枠も好きでしたね。「すごくワクワクしてるね」ってよく言ってました…。

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デザインにおいては足し算より引き算が大事です。修飾というのは足し算に当たりますが、聴衆にぱっと見で情報を処理させるには、情報量は少ない方がいいに決まっています。

例えば、僕はイラストを使いたい時、普段からピクトさんをよく使います。いらすと屋ではないです。なぜなら、いらすと屋よりピクトさんの方が情報量が少ないからです。

さっき7つの棒グラフを虹色に色分けするなんて言ってましたが(あれ実話なんですよ)、ぶっちゃけ最悪ですね。色というのももちろん情報ですから、虹色に色分けするって情報を7つ付加するようなもんです。よく聞くとは思いますが、ベースカラーとアクセントカラーの2色を基本として、それ以外の色は使わない方がいいです(ただし、2色の濃淡と白黒は除きます)場合によってはアクセントカラーはいらないです。

あと、僕の後輩ちゃんのように、枠を使いたがる人は多いので1つアドバイスです。枠を使うなら、できれば一箇所、なるべくスライドの下側に配置してください。自然界と同じで、空(軽いもの)が上にあって、地面(重たいもの)が下にある方が視認性が良いです。

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右のほうがまだ見やすくないですか?

 

5W1Hを意識する

 5W1H、つまり

  • Who(だれに)
  • When(いつ)
  • Where(どこで)
  • What(なにを)
  • Why(なぜ)
  • How(どのように)

伝えたいか、を意識することが大事です。

まず Who(だれに)ですが、聴衆のレベルを意識することはとても大事です。学術スライドなら、どうしてもスライドがビジーになってしまうこともあります。それを是とするか否とするかは、聴衆のレベルに合わせるべきです。同じ研究者相手でも、同じ分野の人たちが集まる学会と、不特定多数の分野も異なる人たちが集まる学会とでは、用意するスライドの見せ方は自ずと変わってきます。

When(いつ)、Where(どこで)はともに発表のシチュエーションの問題です。例えばオンライン会議だとちょっとした色の違いも見分けやすかったり、薄い色でもうまく使えるかもしれません。実際にスクリーンに映して、となると結構濃い色じゃないと見えにくかったりします。あとは、例えば定例の進捗報告のように、すでに示したことのある情報を再度提示しないといけない場合なんかは、そういった重要度の低い(新規ではない)情報は必要以上に目立たせる必要はないと思います。

What(なにを)、Why(なぜ)ですが、これは例えば実験条件と結果を同時に示すスライドなんかに気をつけます。度々登場する後輩ちゃんは、プロトコルに書かれた文言をそのままコピペしてスライドに貼っていました。自ずとスペースが足りなくなって、結果のグラフを小さく載せていました。つまり、これは情報の優先度の話です。実験条件の中でも大切なところだけ箇条書きにして、小さく示して、結果を大きく見せる。

How(どのように)は、今まで言ってきたテクニックですね。何をどう目立たせるかは、自身が聴衆に求める理解レベル(take home message)によるかと思います。

スライドの話からは離れてしまいますが、名刺を例にするとわかりやすいです。

名刺って

  • 初対面の人に
  • (例えば)たくさんの人がいる学会の
  • (例えば)懇親会の時に
  • 自分のことを
  • 知って欲しいから
  • 覚えて帰ってもらえるように

作るものですよね。だから、色々情報がある中で名前が一番大きいんですよね。顔写真を入れている名刺はとてもいいと思います。

あるいは、別の例では何かのイベントのチラシを考えましょう。

  • (例えば)お店の行列に
  • (例えば)並んでいるときに
  • 手に取ってくれた人に
  • イベントのことを
  • 詳しく知って欲しいから
  • イベントに来てもらえるように

特に注意すべきは Who:手に取ってくれた人に、ってとこです。これは、すでにある程度の興味がある人を対象にしています。誰彼構わずに見せるポスターとは、デザインが変わって当然です。具体的には、ポスターは遠くからでもわかるような視認性の高いイラストを使いますが、日時や場所などの詳しい情報は小さくします。逆に、チラシではそういった詳しい情報もある程度の大きさで示す必要があるかと思います。

学術的な場面とは違った例になってしまいましたが、5W1Hを意識する必要性はおわかりいただけたかなと思います。

 

「いいね」をパクる

色々言ってきましたが、絶対的な正解かつ近道は「あ、いいな、これ」って思ったものを真似てみることです。これは文章表現でも構図でも色使いでもなんでもそう。 

例えば色の話をすると、基本的にはベースカラーを好きな色(の濃いめ、暗いめ)にして、それに合わせた色をアクセントカラーにすると思います。ここで「アクセントカラーの選び方がわからない」なんて言われることがあります。色相環を使ってね、というのは簡単ですが、多分こういうこと聞いてくる人には難しいテクニックだと思います。

だったらどうするか。身近にある色々なものの色を見てみましょう。例えばポイントカード、お店の看板、漫画・アニメのキャラクターの配色…周りは色であふれています。その中で、この組み合わせいいなと思ったものを使えばいいんです。

それでも困ったら、使いたい1色を決めて、その明るいのがアクセントカラー、暗いのがベースカラーで大丈夫です。

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まとめ

ちょっとずつお見せするスライドを修正してきました。個人的に『草枕』の冒頭をスライドにするなら、最後のどちらか(個人的には右が好き)になると思います。最初に否定した中央揃えと枠も、こうやって使えば「映える」と思いません?

結局言いたいのは以下のことです。

  • 枠やら図やらは最低限にして、意味のある空白を使って見せる。
  • 過剰な情報を減らすことを意識する。
  • 周りにたくさんあるサンプル・例を真似るのが一番。

僕は後輩からスライドチェックをお願いされたら、内容は口頭やコメントでお伝えしますが、スライドデザインは僕なりにいいなと思う形に(スライドの一部を)変えちゃってから送ります。ゴタゴタ口で言うより、見せた方が楽です。

それで、素直に(忖度なしに)どっちのデザインがいいか聞きます。もし僕の方がいいって言ってくれたら、それを参考に自分なりに作り直すように伝えます。今の所僕の方が悪いって言われたことはないのですが、忖度かもしれません…。

後輩ちゃんは、このやり方を何回か重ねた結果、かなり改善しました。指導教官からの、色やら配置やらのくだらない(内容に関係ない)指摘がなくなりました。

デザインばかり気にして内容や構成がおかしかったら仕方ないので…。まずはそっちですよね。でもだからこそ、デザインにかける時間はできるだけ少なくしたいですよね。

n番煎じな内容ですが、スライドデザインで困っている誰かのお役に立てたなら幸いです。