O-721

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自己満足を形にします。大学院生だったり薬剤師だったり。

アメリカの緩和ケアについての講演を聞いて

先日(といっても少し間が空いてしまいましたが)アメリカで緩和ケア研修(フェローシップ)を終えて帰学なされた医師のお話を聴講できる機会がありました。

アメリカでの医療研修について、そして緩和医療について、貴重なお話を伺えたので、備忘録も兼ねてブログにします!

 

 

フェローシップって? ーアメリカでの医師研修事情

お話を伺った先生は、アメリカでフェローシップ(Fellowship)まで終えられて一旦日本に(本学に)帰ってこられました。

お恥ずかしながら、僕はアメリカでの医学部・医師のキャリアプランについて全く知らなかったので、話の入りから大変でした😅

アメリカでは医学部を卒業後、インターンとレジデントを経た医師がさらなる専門性を磨くべく研修に励む期間をフェローシップといい、その間の医師はフェローと呼ばれるようです。

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学科の卒業から一人前(専門性を認められるという意味ではフェロー?)になるまで、10年以上は優にかかる計算です…!😱

ホスピス・緩和ケアについては、専門認定医協議会が専門科認定を行なったのが2006年で、2008年に最初の認定試験が実施されたようです。フェローシップ期間が必須となったのは2012年と、まだ歴史の浅い専門領域と言えます。

しかし、ベビーブーマー世代による対象患者の増加を見越して、2019年は過去最多のフェローシッププログラム数とポジションが用意されるなど、その専門性は確かに評価されています。

フェローシップのプログラム

具体的なプログラム内容ですが、受け入れ先によって多少違いはあれど、コアプログラムと言われる部分は共通しているようです。

  • ブートキャンプ(1ヶ月間)
  • 病院での緩和ケア(3ヶ月間)
  • 病院でのホスピス(3ヶ月間)
  • 在宅訪問ホスピス(3ヶ月間)
  • 小児科での緩和ケア(1ヶ月間)
  • 高齢者医療(1ヶ月間)
  • 選択科目(1ヶ月間)
  • 緩和ケア外来/疼痛緩和外来/グリーフケア(並行して2ヶ月間)

日本との違い

病棟・病院のあり方が日本とは全く異なりました。

基本理念が「プライベートな空間であること」なので、例えば病棟の病室は全て個室らしいです。また、ホスピスを専門とする医院(Kobacker Houseと言います)も、全く病院らしくない見た目をしています。

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モデルハウスか!!っておもわずツッコミたくなります😅

なおここには、自宅や施設でのコントロールが難しい患者がメインで来るようです。あるいは、介護に当たる家族たちの休暇のためや、最期の看取りのためにといった理由でも来られるようですが、いずれにせよショートステイであることが基本のようです。

ホスピスに入れる条件も設定されており、医師2名が余命6ヶ月未満と診断することが条件らしいです。入居後も定期的に再評価され、改善や安定の見られる患者は認定を取り消されることもあるだとか。

 

緩和フェローシップで学んだこと

パートナーシップ

文化・宗教的な違いもあるのでしょうが、アメリカでは日本に比べるといわゆる医療職以外の方々の活躍も多く見られるそうです。患者の「全人的苦痛」とはよく言いますが、それに対して各々が専門性を以って、それこそ全人的に取り組んでいる印象を受けました。

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ソフトスポット

治療において、バイアスが生じてしまう患者を soft spot(ソフトスポット「柔らかい部分」)と言うそうです。例えば、自分あるいは家族と同じような年齢・人種の患者、子供や高齢者などもそうです(各医療者ごとに異なります)。

バイアスではあるものの、弱点という訳でもなく決してネガティブな言葉ではないようです。僕も今こう書いていて、なんとも伝えにくいのですが、なんとなくイメージいただけると嬉しいです。「Sensitive(過敏)になってしまう患者」ともいっていましたね。

こういう患者と接するときは、自分の治療に対する計画や意志が、個人的な感情に流され恣意的なものになる危険性があります。自分のソフトスポットを知っておくことが大切とのことでした。

 

沈黙の力

Power of silence と表現されていました。

緩和ケアに限った話ではないと思いますが、黙っていることが最善の手であることもしばしばありますよね。何かしたくなるのが医療者の(人間の?)運命でしょうが、グッと堪えることも大事なんですね。

個人的にですが、この言葉が一番印象に残っていますね。沈黙は無力ではなく、力そのものであると、励まされたような気がします。

 

贈る言葉

先生は最後に、フェローシップで学んだ4つの言葉で講演を締められました。

  • Go in without an agenda

「打算を持たずに行きなさい」

「きっとこうだろう」「そろそろこうしたいな」「こうなってくれるといいな」

こうした打算を持って接すると、それは患者本位の治療ではなくなってしまいます。緩和ケアでなくともそうですが、今現時点で患者がどうであるかを、バイアスを持たずに評価することが大切です。

  • Meet them where they are at

「彼らが今いる場所で、彼らに出会いなさい」

つまり、患者が今どんな状況なのかを知って、それに合わせて治療を進めなさいということです。どのような不安がどの程度あるのか、今患者が一番知りたいことは何か、知りたくないこともあるのではないかーそれを知らなければ、患者の苦しみを緩和することはできません。

  • There is always a third way

「3番目の選択肢は常に存在する」

行き詰まりを覚えたとき、雁字搦めの思考から抜け出せないときに思いだす言葉だそうです。右か左かで迷ったら、真ん中の道はないのか?と思考を改めてみる。そうすると、大体のことにはうまく抜け道が存在しているようです。

行き詰まった時こそ、柔軟な思考が試される時です。

  • Patients are allowed to make bad decisions

「患者には悪手を選ぶ権利がある」

患者は時に、こちらが想定する最適手を選ばない時があります。極端な話、治療をしないとかですね。

その時に、なぜ合理的に判断しないのかと、医療者側で勝手に腐ってはいけません。患者には意志があり、権利があります。その妥当性は、我々が決められるものではありません。

 

ざっとかいつまんでのお話でしたが、実際は2時間くらいのお話で、もっと多くのことを語っていただきました!

超高齢社会、2025年問題を目前とした日本でも、緩和ケアやホスピス、終末期医療のあり方はしばしば話題にあがります。全ては難しいでしょうが、十分参考にすべきところがあったかと思います。

誰もが幸せに生きて死んでいける、死ぬことも含めて「生き方」と言える世の中になれば良いなと、心から思います。