漢方薬の漢字が多すぎるからばらしてみた話
薬局の調剤室に入ったことのある方なら思ったことあるかもしれませんが
漢方薬の棚、漢字だらけで威圧感(?)がすごい
どこもこんな感じみたいですね。
さて、今週の勤務の時にふと思ってしまったのです。
「漢方薬の名前で一番使われている漢字は何なんだろう?」
今回はそんな本当にしょうもないことを調べたお話です😅
方法
主に調査対象とした漢方薬は、2019年6月1日現在においてツムラHPに掲載されている129品目の漢方製剤です。唯一の軟膏製剤である紫雲膏も含めます。
他社製品については、調査の中で一部調べましたが、ツムラ製品のように網羅的に調査することはしませんでした。
解析方法は単純に、各製剤名を漢字1文字ずつにばらして漢字ごとの出現頻度を数えました(ソフト:JMP、Excel)。
結果と考察
一番長い漢方製剤名は
本題からは外れてしまいますが、まず対象とした129品目の中で最も長い漢方製剤名を調べてみました。
それは…
ツムラ 038番
当帰四逆加呉茱萸生姜湯(ツムラトウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)
で、11文字でした!その他の結果はFig. 1にまとめております。
ちなみに、この当帰四逆加呉茱萸生姜湯の薬効について、ツムラHPではこのように書かれています。
しもやけ、頭痛、下腹部痛、腰痛の治療に使用されます。 通常、手足の冷えを感じ、下肢が冷えると下肢又は下腹部が痛くなり易い人に用いられます。
僕の少ない現場経験では、まだ調剤したことないですね…。使われるような方多そうな印象なのですが。
一番多く使われている漢字は
結果はFig. 2にまとめています。製剤間で重複して用いられる漢字が多いようで、129品目の製剤名は185個の漢字に分けられました。
その中で最も多く使われていた漢字は…
湯(トウ)
で、2位の「散」の約5倍の登場頻度を誇り堂々の1位でした!(自慢ではないのですが、調査前の予想通りで嬉しかったです。笑)
ちなみに、1位の「湯」も2位の「散」も、漢方製剤の元々の剤形を表しています。クラシエHPでは以下のように書かれています。
漢方薬の処方名は、名前の最後が「~湯」「~散」「~丸」のような形になっています。これは元々作り方を表わしています。「~湯」とは最もよく使用されているもので、生薬を煎じた薬のことです。処方名に「~湯」や「~飲」と付きます。生薬を煎じる時間で抽出される成分も変ってくるので、生薬を入れる順番を変えたりすることがあります。「~散」とは、散剤で生薬を細かく刻んで粉末状にしたものです。水で抽出しづらい成分に適しています。「~丸」は丸薬で、散剤を蜂蜜などで固めて粒状にしたものです。
http://www.kracie.co.jp/ph/coccoapo/consultation/kanpo/howto/
なお、同HPで書かれている通り、現在流通している漢方製剤のほとんどはエキス顆粒という剤形で、末尾が何だろうと大差なく、いわゆる粉薬的にお飲みいただけます。
今回の結果から、漢方製剤の多くは水溶性成分を薬効因子として持つことが言えるかと思います。「XXX湯」に含まれる基剤と「XXX散」に含まれる基剤を比較すれば、水に抽出されにくい条件を見いだすことができるのかもしれませんね。
一番多く使われている漢数字は
漢方製剤の名前では、「四君子湯」や「八味地黄丸」のように、漢数字を含むものも多くあります。ツムラ製品では32の製剤名に含まれており、全体の25%程度に該当します。
では、漢数字だけに絞ればその登場頻度はどのようなものなのでしょう?
1位「四」「五」
いずれも5つの製剤に用いられていました。
「四」四逆散(035)、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(038)、四物湯(071)、四君子湯(075)、猪苓湯合四物湯(112)
「五」五苓散(017)、五淋散(056)、五積散(063)、五虎湯(095)、茵蔯五苓散(117)
しかし実は、大杉製薬からは「四苓湯(シレイトウ)」が販売されているため、これをカウントすれば実質一位は「四」となります!
2位「一」「二」「三」「六」「十」
いずれも2種類の製剤に用いられています。
「一」治頭瘡一方(059)、治打撲一方(089)
「二」二陳湯(081)、二朮湯(088)
「三」三黄瀉心湯(113)、三物黄芩湯(121)
「六」六君子湯(043)、六味丸(087)
「十」十味敗毒湯(006)、十全大補湯(048)
「一」を含む製剤が2つもあるとは、個人的には驚きでした。どちらも初めましてのお薬です。どちらも「一方」という末尾で、調べてみましたが意味はわかりませんでした。適応がそれぞれ「湿疹」と「打撲」と、他の漢方製剤に比べて少ない(1種類ずつ)なので、そういう意味かな…という妄想です。
3位「七」「八」
これらは1つずつしか使われていません!希少価値ですね🤔?
「七」七物降下湯(046)
「八」八味地黄丸(007)
ちなみに、ツムラには「九」を含む製剤名はありませんでした。しかし、「九味檳榔湯(クミビンロウトウ)」という製剤が、コタローからは販売されていました。
今回は、多くの調剤薬局がメインに取り扱っていると思われるツムラの漢方を対象にしましたが、各会社を合わせたり、学会や日本薬局方が定義するような、全体的なデータベースを使えば結果は変わってくるのかもしれません。
漢数字と生薬組成数との関連
漢数字についてもう少しだけ深追いしてみます。
先ほどの「九味檳榔湯」ですが、11種類の生薬から構成されていました。
「九」なのに!? 11種類!!?
というわけで、製剤名の頭に漢数字がある場合、その数字は生薬組成の数と相関するのか、を検証してみます。
製剤名が漢数字から始まる漢方は、19種類ありました(四苓湯と九味檳榔湯を含む)。
製剤名に含まれる数字と生薬組成数との相関をFig. 3に示します。
相関は [生薬組成数] = 4.0864078 + 0.5917476×[漢数字] で線形近似されました(赤い線)。しかし、決定係数は0.1652…と、相関係数として0.4程度であり、相関の程度は弱いものでした。参考までに、青色の線がy=xです。
最も差が大きかったのは「五積散」で、16の生薬から成っていました。次点が「二朮湯」で10の成分から構成されていました。
まとめ(感想)
しょうもないこと思いついたな〜〜〜くらいで始めた調査ですが、いざやってみると面白かったですね!
アルファベットと違い、1つ1つに意味を持つ「漢字」という観点から漢方を見てみるのも、もしかすると意義があるのではないかと思いました。
以上、学振提出終了後のブログ復帰企画でした!皆様、今後ともどうそよろしくです🙇♂️
Figures
Fig. 1 漢方製剤名の漢字数ランキング
Fig. 2 漢方製剤中に使われる漢字の出現頻度
Fig. 3 漢方製剤名に含まれる漢数字(頭文字)と生薬組成数の相関