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自己満足を形にします。大学院生だったり薬剤師だったり。

お前はまだネズミを知らない

新年明けましておめでとうございます🎍

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今年、2020年は子年ですね。「子」がネズミを意味するのは、その繁殖力の高さに由来するらしいですね(出典不明)。

ところでみなさんは、ネズミの中でもマウスとラットの違いはご存知でしょうか? 医学、薬学、生物学等の研究において、彼らは欠かせない存在です。彼らの遺伝子の約99%がヒトの遺伝子と対応している、というと驚く方もいらっしゃるのではないでしょうか。

子年最初の記事は、そんな彼らについて理解を深めるものにしたいと思います。

 

 

マウスとラットの違い

ともすると同じ「ネズミ」に括られる彼らですが、歴とした違いがあります。なお、以下に記す情報は一部個人の経験と、2007年に羊土社より出版の『マウス・ラットなるほどQ&A』に拠ります。

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飼育上での違い

まず体のサイズが全然違います。大人のマウスでは体長は5 cm(※尻尾を除いた長さ)、体重は20〜40 g程度です。一方、ラットはもっと大きくて、20 cm以上(※同前)、700 g以上になることもあるようです。ポ◯モンでいうとコ◯ッタがマウス、 ◯ッタがラットです。

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体格とも同じかもしれませんが、噛まれて痛いのはマウスより断然ラットです。マウスは「いたっ」くらいですが、ラットだと「いっっっっっっったああああああ!!!?」ってなります(経験談)。僕がラットに噛まれたのは学部4年生の時ですが、今でも跡が残っています…。

しかし体格という点のみでは、幼少期には見分けが難しい場合があるようです。

正確に見分けるには、前歯の形を見ることらしいです。マウスの場合は、先端が板状で不連続的に歯の厚みが増します(二段階で厚みが変わる)。ラットの場合は先端から根本に行くまでに徐々に太くなるようです(楔状)。そういう観点では、コ◯ッタの歯はマウスのそれよりラットに近いですね。

そのほかの点では、臓器のひとつである胆嚢があるのがマウス、ないのがラットです。あと、尿の匂いが臭いのがマウス、そんなに臭くないのがラットらしいです。これは僕自身そんなにがっつり嗅いだことないのでわかんないです。

実験上の違い 

先述のように、両者では全く体の大きさが異なることから、マウスよりもラットの方が解剖しやすいです。そのため、ラットは大量の組織回収が必要となる病態・病理学的研究に頻用されてきました。一方でマウスはラットよりも小柄な分、飼育が比較的簡単ですので、個体間の差異に注目するような遺伝学、発生工学、免疫学等の分野で多用されてきました。しかし、特に現在では実験技術の発展のおかげもあり、研究内容に基づく明確な使い分けの規定は無いようです。

 

マウス同士の違い

生物医学研究における動物モデルの概要を把握するためにLabomeが行った、303件の査読有出版物に基づく調査では、マウスは最も多用された動物モデルでした(276/303報)。

www.labome.com

そんなマウスの中にも、実はいくつか種類があります。

C57BL/6マウス

通称「ブラック・シックス」と呼ばれる小柄な黒色のマウスは、ヒトゲノムに次いで2005年に全ゲノム配列が決定された最初のマウス系統です。

系統の安定性や繁殖が容易という利点から、代表的な標準品種としてin vivo実験での生理学・病理学的モデルとして頻用されます。僕が実験でお世話になっているのも、専ら彼らです。

このように重宝される一方、ブラック・シックスでの実験結果が他のげっ歯類で再現できない場合が多いという問題の報告もあります。

www.slate.com

BALB/cマウス

ブラック・シックスより少し大きめの、真っ白なマウスです。ブラック・シックス同様にin vivo実験での生理学・病理学的モデルとして頻用されるのに加え、アルビノ、免疫不全の近交系系統であるため、特にガン治療や免疫学の研究に用いられます。また、ハイブリドーマ、モノクローナル抗体の産生にも有用です。

CD-1マウス

先の2種類のマウスは共に近交系という、遺伝的均質性の高い系統でした。一方、CD-1マウスなどは非近交系の系統で、遺伝的多様性があります。これは特定の形質の表現型や遺伝子型の選択において利点となりますが、毒性学や腫瘍学などの研究分野においては非近交系の使用は不適切と考えられます。

CB17 SCID マウス

名前にSCID:重症複合免疫不全とあるように、免疫細胞のうちT、B細胞を欠きます(NK細胞、マクロファージ、顆粒球は正常)。このため、ヒト腫瘍移植の成功率は非常に高く、一般的な免疫不全マウスであるヌードマウスよりも高確率に移植可能です。この特徴から、新規のガン治療試験に用いられ、またヒト免疫系組織の宿主として有用な免疫不全動物モデルとなります。

A/J マウス

アルビノマウスで、遅発性進行性筋ジストロフィーや副腎皮質ホルモン誘発性先天性口蓋裂などの独特な特徴があります。また、自然発生肺腺腫の発生率が高く、発がん性物質への暴露反応として簡単に誘発できるようです。

ICRマウス

アルビノの非近交系マウスで、おとなしい性質、高い増殖性、急速な成長などを特徴とするようです。同じくアルビノで非近交系のCD-1との比較では、ICRは重度の視覚障害に罹患しているため、視覚が重要な行動試験では異なる結果が得られることがあるようです。

その他のマウス

正直見たことも聞いたこともないので違いとか分かりませんが、他にも色々いるみたいです。129X1/Svマウス、T細胞欠損ヌードマウス 、F344/DuCrl2Sweマウス、OF1マウス、無胸腺ヌード(Nu/Nu)マウス 、C57BL/10マウス、FVBマウス、B6バックグラウンドGFマウス、Swiss Webster (SW)マウス、無胸腺ヌードFoxn1-nuマウスなど…

お詳しい方、ご教示ください。。。

 

ラット同士の違い 

マウスに次いで2番目に頻用される実験動物です。ラットではマウスほど多くの品種はなく、2種類です。正直この2種類に大差はなく、先に開発された品種が頻用されている印象です。

多くのマウス系統と同様に、これらの2種類のラット系統はアルビノです。その一方、両方のラット系統は非近交系(遺伝的に多様)であり、頻用されるマウスとは異なる一面もあります。

Wistarラット

モデル動物として最初に開発されたラット系統であり、ラットを用いる多くの実験ではこのウィスターが用いられます。

Sprague-Dawleyラット

細長い(シャープな)頭が特徴的なアルビノラットです。繁殖率が高く、自然発症腫瘍の発生率が低いことに加え、気質は穏やかで取り扱いは比較的容易とされます。

 

このように、一口に「ネズミ」と言っても、様々な種類が存在するのです。個人的にはブラックシックスマウスが、小さくて可愛くて好きです。

ネズミと聞くと少し汚い印象をお持ちの方もいるかもしれませんが、特に医学薬学等の研究においては非常に重要な存在です。そしてそうしたマウス・ラットは特に汚くもないです。

僕自身、最近になってin vivoの実験もやるようになりました。陰の立役者であるネズミたちに感謝を忘れない、そんな1年にしたいです。

 

末筆ですが、改めまして、謹んで新年のお祝いを申し上げます。2020年も皆様にとって、幸多き年となりますように心からお祈り申し上げます。