夢のある研究の話②
①からのつづきです✌️
〈リアルワールドデータ解析〉
リアルワールドデータというのは、日本語にすると「実臨床情報」で、臨床現場で蓄積された実績データのことを指します。
これの実用性とは何か?
たとえば①で触れた自己免疫疾患。関節リウマチにしましょうか。これは非常に長い間付き合わなければいけない病ですし、一度良くなってもまた悪くなるってことも往々にしてあります(寛解と再燃を繰り返す、と言います)。
ところでお薬の開発承認に必要な治験や、開発後の育薬のための前向き臨床試験なんかにかけられる時間はどれくらいでしょう。だいたい1年、長くても2,3年かなという印象です。3年も追跡できるのはかなり大規模な試験ですね。
そんな短期間で、関節リウマチのような生涯続く病の治療薬を正しく評価しきれるでしょうか?(決して駄目と言っているわけではありません)
一般に、臨床試験の課題として five toos (5つの「〇〇すぎ」)が言われます。
- too few (患者数少なすぎ)
- too simple (投与方法単純すぎ)
- too brief (投薬期間が短すぎ)
- too median-aged (中年に限定しすぎ)
- too narrow (特殊患者除きすぎ)
A. S. Rogers, Drug Inteligence and Clinical Pharmacy, 1987
リクルートできる患者さんの数は限られるし、投与方法は原則的なものにする(錠剤を粉砕するとか半割するとか経腸投与するとかはしない)し、試験期間は短いし、小児老人、妊婦や複合疾患患者は除くといった次第です。
ここから得られる結果は、もちろん無意味ではありませんが、実臨床での使用実績と必ずしも一致しなさそうじゃないですか?
だから、承認時の(前向き)介入試験に加えて、承認後の(前or後向き)観察研究が必要なのです。前向きとは未来に向かって、後向きとは過去を振り返って、という意味です。この後向き研究で役立つのが、先程申し上げたリアルワールドデータ RWD なのです。
RWDは、臨床試験のような特殊なセッティングではなく、現場での使用実績そのままが格納されている点で、とても素直なデータです。データベースさえ正しく豊富に貯めておけば、解析から様々な説を唱えることができます。
たとえば、先日思いついたのは、ピッキングサポートシステムを通じて記録される調剤ミスデータから、薬剤師がどういった取り間違えをしやすいかという解析です。名前が似ているのか、薬棚の位置が近いのか、規格を間違えたのか…。仮に、圧倒的に規格違いの回数が多いという結果であれば、名称類似薬よりも規格違いを離して保管する方が安全だという提案ができるかもしれません。
このように、RWD解析は現状の実態調査と、そこからの課題抽出や仮説提案につながります。とはいえ既に過去に起こったことなので、因果関係までは特定できません。これを担うのは前向き介入試験の方ですね。
RWDについて詳しくは、👇のような論文をお読みくだされ。京都大学の川上浩司先生はこの分野ではかなり有名かつ有力な先生です。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpe/22/1/22_37/_pdf/-char/ja
このデータベースの話は③に続きますが、眠たいので今日はこのあたりで👋